共有に関する規律の見直し
1 共有物の軽微変更
(1) 共有者が共有物に変更を加える行為であっても、その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(以下「軽微変更」という。)については各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することとされました(改正民法第251条第1項、第252条第1項)。
(2) 分筆又は合筆の登記については、前記(1)の軽微変更に該当し、分筆又は合筆の登記を申請しようとする土地の表題部所有者又は所有権の登記名義人(不登法第39条第1項)の持分の価格に従い、その合計が過半数となる場合には、これらの者が登記申請人となって分筆又は合筆の登記を申請することができ、それ以外の共有者らが登記申請人となる必
要はありません(改正民法第252条の2第1項に規定する共有物の管理者が代理人となって登記申請をする場合については、後記5のとおり。)。
(3) 登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認することにります。
(4) 所有権の登記がある土地の合筆の登記申請時に提供を要する登記識別情報(不登令第8条第2項第1号)は、登記申請人に係るもののみで足ります。
(5) 登記官は登記の完了後、登記申請人にならなかった共有者全員に対し、不登規則第183条第1項第1号に基づき登記が完了した旨を通知します(同条第2項の規定にかかわらず、登記申請人にならなかった共有者全員に通知するものとする。)。
(6) 区分所有法の適用がある建物の敷地(以下「区分所有敷地」という。)の分筆の登記についても、上記と同様に取り扱うものとします(区分所有法第25条第1項に規定する管理者が代理人となって登記申請をする場合については、後記5のとおり。)。
2 所在等不明共有者がいる場合の共有物の変更
(1) 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができることとされました(改正民法第251条第2項)。
(2) 前記(1)の裁判に基づいて共有物に変更が加えられ、これに基づいて当該共有物の変更に係る登記の申請をする場合、具体的には、後記3(1)アからエまでに掲げる期間を超える賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下「長期の賃借権等」という。)を設定し、当該長期の賃借権等の設定の登記(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利
の設定の登記としては、地上権の設定の登記、永小作権の設定の登記、地役権の設定の登記、賃借権の設定の登記及び採石権の設定の登記がある。以下同じ。)を申請する場合には、改正民法第251条第2項の趣旨から、所在等不明共有者以外の共有者全員が登記申請人となり(所在等不明共有者は登記申請人とはならないが、登記義務者としてその氏名
又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要がある。)、確定裁判に係る裁判書の謄本及び請求を行った共有者が所在等不明共有者以外の他の共有者全員の同意を得て共有物(不動産)に長期の賃借権等を設定したこと(所在等不明共有者以外の共有者全員が契約当事者になる場合と、その一部が契約当事者になる場合がある。)を証する情報が、登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」という。)となります。
(3) 登記官は、登記の完了後、所在等不明共有者に対して登記が完了した旨を通知することを要しません。
3 共有物の管理(短期の賃借権等の設定)
(1) 共有者が、共有物に次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利であって、次のアからエまでに掲げる期間を超えないもの(以下「短期の賃借権等」という。)を設定することについては、共有物の管理に関する事項の規律に基づいて各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することとされました(改正民法第252条第4項)。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等10年
イ アに掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等5年
ウ 建物の賃借権等3年
エ 動産の賃借権等6か月
(2) 前記(1)の過半数で決するところにより短期の賃借権等が設定され(当該過半数による決定を行った共有者全員が契約当事者になる場合と、その一部が契約当事者になる場合がある。)、これに基づいて当該短期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、改正民法第252条第4項の趣旨から、各共有者の持分の価格に従い、その過半数を有する共有者らが登記申請人となれば足ります(当該共有者ら以外の共有者らは、登記申請人とはならないが、登記義務者としてその氏名又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要がある。)。また、当該過半数で決するところにより短期の賃借権等が設定されたことを証する情報が登記原因証明情報となります。この場合には、登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認することになります。
(3) 登記官は、登記の完了後、登記申請人にならなかった共有者全員に対し、不登規則第183条第1項第2号の場合に準じて登記が完了した旨を通知します(同条第2項の規定にかかわらず、登記申請人にならなかった共有者全員に通知するものとする。)。
4 所在等不明共有者等がいる場合の共有物の管理
(1) 裁判所は、①共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき、②共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないときは、当該①又は②の他の共有者(以下この項にお
いて「所在等不明共有者等」という。)以外の共有者の請求により、当該所在等不明共有者等以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができることとされました(改正民法第252条第2項)。
(2) 前記(1)の裁判に基づいて所在等不明共有者等以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するところにより短期の賃借権等が設定され(当該過半数による決定を行った共有者全員が契約当事者になる場合と、その一部が契約当事者になる場合がある。)、これに基づいて当該短期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、改正民法第252条
第2項の趣旨から、所在等不明共有者等以外の共有者のうち、各共有者の持分の価格に従い、その過半数を有する共有者らが登記申請人となれば足り(当該共有者ら以外の共有者らは登記申請人にはならない。)、確定裁判に係る裁判書の謄本及び所在等不明共有者等以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するところにより短期の賃借権等が設
定されたことを証する情報が、登記原因証明情報となります。この場合には、登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認します。なお、登記申請人とはならなかった共有者らについても、登記義務者
としてその氏名又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要があります。
(3) 登記官は、登記の完了後、所在等不明共有者に対して登記が完了した旨を通知することを要しませんが、所在等不明共有者以外で登記申請人にならなかった共有者全員に対し、不登規則第183条第1項第2号の場合に準じて登記が完了した旨を通知します(同条第2項の規定にかかわらず、所在等不明共有者以外で登記申請人にならなかった共有者全員に通知するものとする。)。
5 共有物の管理者等
(1) 共有物の管理者の選任等
共有物の管理者の選任及び解任は、共有物の管理に関する事項として、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することとされました(改正民法第252条第1項)。選任された共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができますが、共有物に変更(軽微変更を除く。以下同じ。)を加えることについては、共有者の全員の同意を得なければならないこととされました(改正民法第252条の2第1項)。また、共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができることとされました(同条第2項)。
(2) 分筆又は合筆の登記
ア共有物の管理者が共有物について分筆又は合筆の登記を申請する場合には、管理者を選任した共有者らが登記申請人となり、それ以外の共有者らは登記申請人となる必要はありません。当該共有物の管理者が分筆又は合筆の登記の申請をする場合には、管理者を選任した共有者らの代理人として行うものと解されます。この場合には、法定の要件(改正民法第252条第1項)を満たしていることを担保するため、共有持分の価格を合算して過半数となる表題部所有者又は所有権の登記名義人が登記申請人となることを要します。
イ前記(1)の過半数による決定により共有物の管理者を選任したことを証する情報が、代理人の権限を証する情報となります(これとは別に登記申請について代理権を授与したことを証する情報の提供は要しません。)。この場合には、登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認することになります。なお、分筆の登記を申請する場合には、代理人の権限を証する情報に印鑑証明書の添付は不要であるが、共有物の管理者を選任した共有者らの押印を要し、合筆の登記を申請する場合には、共有物の管理者を選任した共有者らの押印及び作成後3か月以内の印鑑証明書の添付(電子申請の場合にあっては電子署名及び不登規則第43条第1項各
号に規定する電子証明書の提供。以下同じ。)を要します。
ウ登記官による登記が完了した旨の通知については、前記1(5)と同様に取り扱うものとします。
(3) 区分所有敷地の分筆の登記
ア区分所有法第39条第1項及び第17条第1項に基づき、集会において、区分所有敷地の分筆の登記申請行為を区分所有法第25条第1項所定の管理者に行わせることについて区分所有者及び議決権の各過半数(規約に別段の定めがある場合には、その定めによる割合。以下同じ。)による決議がされた場合において、当該管理者が当該決議に基づいて区分所有敷地の分筆を申請する場合には、当該集会決議を行った区分所有者らが登記申請人となり、それ以外の区分所有者らは登記申請人となる必要はありません。当該管理者は、当該集会決議を行った区分所有者らの代理人となると解されます。この場合には、法定の要件(区分所有法第39条第1項及び第17条第1項)を満たしていることを担保するため、区分所有者及び議決権の各過半数の者(表題部所有者又は所有権の登記名義人)が登記申請人となることを要します。
イ一筆の土地のどの部分を分割するかという区画決定行為及び区分所有敷地の分筆の登記申請行為を管理者に行わせることについて決定された旨の内容が明らかにされた集会決議の議事録が、代理人の権限を証する情報となります(これとは別に登記申請について代理権を授与したことを証する情報の提供は要しません。)。この場合には、登記官は、区分所有者及び議決権の各過半数の者が登記申請人となっていることを登記記録で確認することになります。なお、集会決議の議事録は、区分所有法第42条第3項により議長及び集会に出席した区分所有者の二人の署名を要するとされていますが、登記申請に当たってはその印鑑証明書の添付は不要です。おって、集会決議の議事録が電磁的記録で作成されている場合において、書面申請の方法により登記申請をするときは、不登令第15条に規定する磁気ディスク(不登規則第52条第1項に規定する電子署名を含む。)及び同条第2項所定の電子証明書の提供を要します。
ウ登記官による登記が完了した旨の通知については、前記1(5)と同様に取り扱うものとします。
(4) 短期の賃借権等の設定
ア共有物の管理者が、共有物について短期の賃借権等を設定し(管理者自らが契約当事者になる場合と、共有者の全部又はその一部が契約当事者になり、管理者がこれらの者から委任を受けて契約を締結する場合がある。)、当該短期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、管理者を選任した共有者らが登記申請人となります(それ以外の共有者らは、登記申請人とはならないが、登記義務者としてその氏名又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要がある。)。当該共有物の管理者は、管理者を選任した共有者らの代理人となって申請をすることになると解されます。
イ過半数による決定により共有物の管理者を選任したことを証する情報が、代理人の権限を証する情報(共有物の管理者を選任した共有者らの押印及び作成後3か月以内の印鑑証明書の添付がされたもの)となります(これとは別に登記申請について代理権を授与したことを証する情報の提供は要しない。)。この場合には、登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認することになります。
ウ登記官は、登記申請人にならなかった共有者全員に対し、不登規則第183条第1項第2号の場合に準じて登記が完了した旨を通知します(同条第2項に規定にかかわらず、登記申請人にならなかった共有者全員に通知するものとする。)。
(5) 長期の賃借権等の設定
共有物の管理者が共有物について長期の賃借権等を設定し(管理者自らが契約当事者になる場合と、共有者の全部又はその一部が契約当事者になり、管理者がこれらの者から委任を受けて契約を締結する場合がある。)、当該長期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、共有者全員が登記申請人となり、管理者がその代理人となって申請をすることになります。この場合には、上記(4)の代理人の権限を証する情報として挙げたものに加えて、各共有者が共有物について長期の賃借権等を設定したことに同意したことを証する情報(作成者の押印及び作成後3か月以内の印鑑証明書の添付がされたもの)が代理人の権限を証する情報として必要となります(不登令第18条)。
(6) 所在等不明共有者以外の共有者らの同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判があった場合における不動産登記の取扱い
共有物の管理者の請求により前記(1)の所在等不明共有者以外の共有者らの同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判があった場合における不動産登記の取扱いは、前記(5)及び所在等不明共有者がいる場合の共有物の変更(前記2)における取扱いと基本的に同様であるが、当該裁判に関する確定裁判に係る裁判書の謄本は、過半数による決定により共有物の管理者を選任したことを証する情報を兼ねることができます。
6 裁判による共有物の分割
裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができることとされました(改正民法第258条第2項)。
一共有物の現物を分割する方法
二共有物に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができることとされました(改正民法第258条第4項)。
なお、共有物の分割の裁判に係る従前の不動産登記事務の取扱いに変更はありません。
7 所在等不明共有者の持分の取得
(1) 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該所在等不明共有者の持分を取得させる旨の裁判をすることができることとされました(改正民法第262条の2第1項前段)。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求した各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させることとされました(同項後段)。この規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用することとされました(同条第5項)。
(2) 前記(1)の請求をした共有者に所在等不明共有者の持分を取得させる裁判があり、当該裁判に基づいて当該持分の移転の登記の申請がされた場合には、当該持分を取得した共有者は、当該所在等不明共有者の代理人となると解されます。また、確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報及び登記原因証明情報となります。この場合において、登記原因は「年月日民法第262条の2の裁判」と記載し、登記原因の日付は当該裁判が確定した日(当該裁判がされた日ではない。)とします。なお、登記識別情報を提供することを要しません。
おって、所在等不明共有者が死亡していることは判明したが、戸除籍の廃棄等により、その相続人のあることが明らかでない場合には、当該持分の移転の登記の前提として、当該死亡した所有権の登記名義人の氏名変更の登記(相続財産法人名義への変更登記)をする必要があります。この登記の申請は、所在等不明共有者の相続財産法人が登記申請人となり、当該持分を取得した共有者が、その代理人となって行うことになります。この場合には、当該持分が相続財産法人に帰属する旨が記載された確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報及び登記名義人の氏名変更を証する情報となります。
8 所在等不明共有者の持分の譲渡
(1) 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができることとされました(改正民法第262条の3第1項)。この規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用することとされました(同条第4項)。
また、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後2か月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失うこととされました。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができることとされました(改正非訟法第88条第3項)。
(2) 前記(1)の裁判があり、当該裁判に基づいて所在等不明共有者の持分全部の移転の登記の申請がされた場合には、請求を行った共有者は、所在等不明共有者の代理人となると解され、確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報となります。また、所在等不明共有者の持分全部の移転の登記の登記原因の日付は、当該裁判が効力を有する期間内である必要があるため、登記官は、当該登記原因の日付が当該裁判の確定後(当該裁判をした日を基準とするのではない。)2か月以内(裁判所による期間の伸長があったことを証する情報が提供された場合には、当該伸長された期間内)であるかを確認しなければなりません。これらの期間内でない登記原因の日付による登記の申請は、不登法第25条第13号及び不登令第20条第8号の規定により却下しなければなりません。これに対し、所在等不明共有者の持分全部の移転の登記の申請を上記期間内にする必要はない。なお、登記識別情報の提供をすることを要しません。これに対し、対象不動産が農地である場合には、農地法(昭和27年法律第229号)所定の許可を証する書面の添付を要することは、従前のとおりです。また、所在等不明共有者が死亡していることは判明したが、戸除籍の廃棄等により、その相続人のあることが明らかでない場合には、当該持分全部の移転の登記の前提として、当該死亡した所有権の登記名義人の氏名変更の登記(相続財産法人名義への変更登記)をする必要があります。この申請は、所在等不明共有者の相続財産法人が登記申請人となり、請求を行った共有者がその代理人となって行うことになります。この場合には、当該持分が相続財産法人に帰属する旨が記載された確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報及び登記名義人の氏名変更を証する情報となります。
1 基本的義務
(1) 不動産の承継について遺言がされていない場合の申請義務
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました(改正不登法第76条の2第1項前段)。
当該申請義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができることとされ(改正不登法第76条の3第1項。以下同項の規定による申出を「相続人申告登記の申出」といいます。)、当該申請義務の履行期間内に相続人申告登記の申出をした者は、当該申請義務を履行したものとみなすこととされました(改正不登法第76条の3第2項)。
(2) 不動産の承継について遺言がされていた場合の申請義務
改正不登法第76条の2第1項前段の規定による申請義務については、遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とすることとされました(改正不登法第76条の2第1項後段)。
したがって、所有権の登記名義人による遺言がされていた場合において、当該遺言により不動産の所有権を取得した者が相続人であるときは、当該相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請する義務を負うこととなります。具体的には、遺言の内容が、相続人に対する遺贈であった場合には、改正不登法第76条の2第1項後段の規定による申請義務が生ずることとなり、遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(特定財産承継遺言)であった場合
には、同項前段の規定による申請義務が生ずることとなります。
これらの申請義務についても、当該申請義務の履行期間内に相続人申告登記の申出をした者は、当該申請義務を履行したものとみなすこととされました(改正不登法第76条の3第1項・第2項)。
2 遺産分割が成立した場合の申請義務
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により法定相続分(民法(明治29年法律第89号)第900条及び第901条の規定により算定した相続分をいう。以下同じ。)の割合に応じた所有権を取得した者は、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請する義務を負いますが、これに加えて、相続の開始後に遺産の分割があったときには、当該遺産の分割によって所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請する義務を負うこととされました(改正不登法第76条の2第1項前段)。この遺産分割が成立した場合の申請義務については、次の点に留意する必要があります。
(1) 法定相続分での相続登記がされた後に遺産分割が成立した場合の追加的申請義務
法定相続分での相続登記(所有権の移転の登記)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産分割の日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました(改正不登法第76条の2第2項)。
(2) 相続人申告登記の申出後に遺産分割が成立した場合の追加的申請義務
相続人申告登記の申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(改正不登法第76条の2第1項前段の規定による登記がされた後に遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました(改正不登法第76条の3第4項)。
3 代位による申請や官公署の嘱託により登記がされた場合の申請義務
代位者その他の者の申請又は嘱託により、改正不登法第76条の2第1項、第2項又は第76条の3第4項の規定による登記がされた場合には、所有権の移転の登記の申請義務について規定する当該各項の規定を適用しないこととされました(改正不登法第76条の2第3項、第76条の3第5項)。
4 過料
改正不登法第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処することとされました(改正不登法第164条)。
5 経過措置
改正不登法第76条の2の規定は、その施行日(令和6年4月1日)前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合についても適用することとされました。
この場合において、当該施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日又は当該施行日のいずれか遅い日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました。
また、遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者についても同様に、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日又は当該施行日のいずれか遅い日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました。
さらに、法定相続分での相続登記がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産分割の日又は当該施行日のいずれか遅い日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました(改正法附則第5条第6項)。
過料事件の手続について
1 裁判所への通知(過料通知)
(1) 登記官は、改正不登法第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務に違反して改正不登法第164条の規定により過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときは、これらの申請義務に違反した者に対し相当の期間を定めてその申請をすべき旨を催告(以下「申請の催告」という。)し、それにもかかわらず、その期間内にその申請がされないときに限り、遅滞なく、管轄地方裁判所にその事件を通知(以下「過料通知」という。)しなければならないこととされました(不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和5年法務省令第33号)による改正後の不動産登記規則(平成17年法務省令第18号)第187条第1号)。
すなわち、違反後すぐに過料がくるわけではありません。
(2) 申請の催告は、書留郵便又は信書便の役務であって信書便事業者において引受け及び配達の記録を行う方法(申請義務に違反した者が外国に住所を有する場合にあっては、これらに準ずる方法を含む。)により別記第1号様式の催告書を送付してするものとし、当該催告において定めた期限内に登記の申請がされた場合又は当該催告の後に「正当な理由」がある旨の申告がされ、登記官において後記3のとおり確認した結果、「正当な理由」があると認めた場合には、過料通知を行いません。
2 登記官が申請の催告を行う端緒
登記官は、次に掲げるいずれかの事由を端緒として、改正不登法第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務に違反したと認められる者があることを職務上知ったときに限り、申請の催告を行うものとするとのことです。
① 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき
② 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき
3 登記官による正当な理由の確認
前記第2の4の「正当な理由」の有無についての判断は、催告書において、「正当な理由」がある場合にはその具体的な事情を申告するよう求めた上で、当該申告内容その他一切の事情を総合的に考慮して行うものとするとのことです。
なお、相続登記等の申請義務の履行期間内において、次の①から⑤までのような事情が認められる場合には、それをもって一般に「正当な理由」があると認められます。もっとも、これらに該当しない場合においても、個別の事案における具体的な事情に応じ、申請をしないことについて理由があり、その理由に正当性が認められる場合には、「正当な理由」があると認めて差し支えないとのことです。
① 相続登記等の申請義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
② 相続登記等の申請義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
③ 相続登記等の申請義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情
がある場合
④ 相続登記等の申請義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第1条第2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
⑤ 相続登記等の申請義務を負う者が経済的に困窮しているために、登
記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
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