1のつづき
(1)②について記載します。
閲覧等の制限の決定で秘匿されることになる事項(情報)は、
① 秘匿決定の対象となっている秘匿事項
② 秘匿事項を推知させる事項 が記載等されている部分の閲覧等を制限 です。
※ 閲覧等の制限の決定をするには、秘匿決定が必要です。
住所等の推知事項は受診した近隣の医療機関名や、子が通う学校名などです。
氏名等の推知事項は親族の氏など。(申立て等をする者を特定しないために氏名を秘匿しているケース)
※ 閲覧等制限決定は、上記①及び②の秘匿事項・推知事項が記載等されている「部分」を対象に、発令されます。
例えば、第1準備書面と第2準備書面に、推知事項(ex 子が通う学校の具体的な名前)が記載されている場合に、閲覧等を制限するには、それぞれの記載につき閲覧等の制限の決定が必要です。第1準備書面につき閲覧等の制限の決定があった後に、第2準備書面を提出しても、決定がない限り、閲覧等の制限はされません。
閲覧等の制限の決定の審理等について
申立ては閲覧等の制限の対象となる部分を特定し、マスキング書面を提出して、申立てをします(規52の11)。
※ 決定の判断が出るまでの申立てがあった部分については他の当事者等の閲覧等は制限されます。
閲覧等制限の決定
閲覧等を制限する部分につき、閲覧等の制限の決定がされます。
当事者等が、主張書面や陳述書等の証拠を提出するに際しては、自分が提出すべきものに、秘匿事項や推知事項が表れないように注意する必要があります。
やむを得ず表れた秘匿事項等については、(申立てがないと、閲覧等の制限はできないので)、その提出の際に、当該記載部分を具体的に特定して、閲覧等の制限の決定の申立てをする必要があります(規52の11Ⅱ)。
※ 閲覧等の決定(認容決定)に、即時抗告はできません(取消請求で対応)。却下決定には、即時抗告が可能です。(法133の2Ⅱ)(法133の2Ⅱ~Ⅳ)
(2)①について記載します。
現行法では例えば、裁判所は、当事者又はその法定代理人に対して送達をするため、その者の住所、居所その他送達をすべき場所又はその者の氏名その他当該者を特定するに足りる事項についての調査を嘱託する場合がありますが、被告に訴状を送達するために、住所等が調査されても、被告は、訴状が送達されるまで、そもそも訴えの提起があったことを知らず、送達がされるまで、被告において、住所等につき秘匿決定の申立てをすることができません。
そこで、申立てがなくとも、裁判所が、職権で、送達のための調査嘱託の結果等の閲覧等の制限を可能とする仕組みを創設しました。
要件としては、
当事者又はその法定代理人に対し送達をするため、その者の住所等・氏名等の調査嘱託をした場合に、当該嘱託の結果の報告が記載された書面が閲覧されることにより、当事者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることが明らかであることです。
閲覧等の制限の対象は、
① 調査嘱託の結果が記載された書面
② ①の書面に基づいてされた送達に関する書面等 です。
※ 被告が訴状を受け取り、その訴訟の係属を知った後に出される答弁書や準備書面等の書類等について、被告が、閲覧等の制限を求めるには、被告において、秘匿決定や閲覧等の制限の申立てをする必要があります。(法133の3)
(3)①について記載します。
自己の住所、氏名を秘匿したまま強制執行の申立てが可能となります。例えば、原告の住所、氏名につき代替事項が記載されているケースでは、その代替事項を強制執行の申立書の債権者欄に記載することができます。
民事執行の手続における秘匿決定・閲覧等の制限の決定
民事執行の事件記録につき、閲覧等の制限を求めるためには、改めて、秘匿決定と閲覧等の制限の決定が必要です。
代替事項が記載された判決に基づく強制執行手続も同じです。代替事項と異なり、判決手続の秘匿決定の効果は、判決手続限りです。
供託命令の規定の整備
債権の差押えでは、最終的に、債権者が、第三債務者から、取立てをしますが、差押命令の債権者欄に代替事項が記載されていると、差押命令からは、第三債務者に債権者が誰かわからず弁済できません。
よって改正により裁判所は、秘匿決定に係る差押債権者の申立てにより、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託すべきことを第三債務者に命ずることができるようになります。
第三債務者は、供託命令があれば、それに従って、供託をし、債権者は、供託所から支払を受けます。これにより第三債務者に対し、債権者が、その住所、氏名を知らせないまま、取立てが可能となります。
※ 債権者の代理人である弁護士、司法書士が、代理権(弁済受領権)を証明して、債権者の氏名、住所を知らせないまま、直接第三債務者から取り立てる方法をとることも妨げられません。(民執法20、法133~133の4)(民執法161の2、156Ⅲ等)
家事事件の手続と秘匿決定
民事訴訟と同様に、家事事件についても、申立て等をする者及びその法定代理人の住所・氏名を申立書に記載しないことを可能とする秘匿決定の制度が導入されます。
秘匿決定の効果としては、
① 秘匿決定において定めた住所又は氏名の代替事項を記載すれば、真の住所又は氏名の記載は不要です。
② 他の当事者等による秘匿事項届出書面の閲覧等は制限されます。
※ 閲覧等の制限の決定の制度は、家事事件には、導入していません。閲覧等の制限は、既存の家事事件の閲覧等の許可の制度(家事法47、254等)での対応となります。
代替事項の効果の範囲としては(家事法38の2)
家事事件における代替事項は、強制執行等に関する手続のほか、これら以外の裁判手続であっても代替事項の定めの目的に反しない限り、その効果は及びます。
ex. 家事調停の手続における代替事項は、移行後の家事審判の手続にも効力が及びます。
後見開始事件の手続における代替事項は、成年後見人解任などの関連する事件の手続にも効力が及びます。
本案事件における代替事項は、当該事件の履行勧告・履行命令の手続にも効力が及びます。
※ 代替事項の効果は、裁判手続の関係にしか及びません。
戸籍や後見登記等の記載について代替事項を記載することはできません。
※ 人事訴訟については、事実の調査部分を除き、民事訴訟の規律が適用されます。