第1 秘匿制度及び供託命令の概要
1 秘匿制度について
(1) 秘匿決定
民事訴訟手続きにおいて申立て等をする者又はその法定代理人の住所、居所その他通常所在する場所又は氏名その他当該者を特定するに足りる事項の全部又は一部が相手方当事者に知られることによって当該申立人等が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、住所等又は氏名等の全部又は一部を秘匿する旨の裁判(以下「秘匿決定」という。)をすることができます(民事訴訟法第133条第1項)。
(2) 代替事項の定め
裁判所は、秘匿決定をする場合には、当該秘匿決定において、当該秘匿決定の対象となった申立人等(以下「秘匿対象者」という。)の住所又は氏名に代わる事項(以下「代替事項」という。)を定めなければなりません(民事訴訟法第133条第5項前段)。この場合において、当該代替事項を当該事件並びにその事件についての反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する手続において記載したときは、民事訴訟法その他の法令の規定の適用については、当該秘匿対象者の住所又は氏名を記載したものとみなされます(同項後段)。
(3) 他の法律における準用
(1)及び(2)の各規定は、民事訴訟手続以外の民事裁判手続(民事執行手続、民事保全手続等)においても準用されます(民事執行法(昭和54年法律第4号)第20条、民事保全法(平成元年法律第91号)第7条等)。
詳しくは前回ブログを参照下さい。
今回は不随する供託手続きについてです。
2 供託命令について
次の(1)又は(2)のいずれかに掲げる場合には、執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託すべきことを第三債務者に命ずる命令を発することができます(民事執行法第161条の2)。第三債務者は、当該命令の送達を受けたときは、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託しなければなりません(同法第156条第3項)。
(1) 差押債権者又はその法定代理人の住所又は氏名について秘匿決定がされたとき。
(2) 債務名義に差押債権者又はその法定代理人の住所又は氏名に係る代替事項が表示されているとき。
第2 秘匿決定がされた事件に関する供託事務の取扱い
1 供託の受理における事務の取扱いについて
(1) 供託書の取扱い
供託書には、供託者又は被供託者の氏名及び住所を記載しなければなりませんが(供託規則(昭和34年法務省令第2号。以下「規則」という。)第13条第2項第1号、第6号)、裁判上の保証供託の場合であって、供託者又は被供託者の氏名又は住所につき秘匿決定がされているときは、代替事項の記載をもってこれらに代えることができることとされます。
この場合には、供託書の備考欄に、供託者又は被供託者の氏名又は住所について秘匿決定がされている旨の記載を要します。
(2) 代理人の権限を証する書面の取扱い
供託者の氏名又は住所について供託書に代替事項が記載されている場合には、規則第14条第4項に規定する代理人の権限を証する書面(以下「代理権限証書」という。)と併せて、代替事項に係る氏名又は住所を明らかにする裁判所書記官作成の証明書を提示することを要します。ただし、委任による代理の場合であって、代理権限証書に供託者の氏名又は住所につき秘匿決定がされている旨が記載されている場合には、当該記載をもって、当該証明書に代えることができるものとされます。
(3) 電子情報処理組織による供託の取扱い
電子情報処理組織を使用して供託をする場合においても、上記(1)と同様に、申請書情報として、代替事項に係る情報を送信することができる(規則第39条第1項参照)ものとし、代理権限証書に代わるべき情報の取扱いについては、上記(2)と同様となります。
2 供託物の払渡しにおける事務の取扱いについて
(1) 供託物払渡請求書の取扱い
請求者が秘匿対象者である場合における供託物払渡請求書には、当該請求者の氏名及び住所を記載することを要します(規則第22条第2項第8号。なお、民事訴訟法第133条第5項の規定は、適用されない。)。
(2) 還付を受ける権利を有することを証する書面等の取扱い
還付を受ける権利を有することを証する書面又は取戻しをする権利を有することを証する書面として添付すべき書面(規則第24条第1項第1号、第25条第1項)に代替事項が記載されている場合には、当該書面と併せて、代替事項に係る氏名又は住所を明らかにする裁判所書記官作成の証明書を添付することを要します。
配当によって供託物の払渡しをすべき場合において、支払委託書(規則第27号書式から第28号の2書式まで)及び支払証明書(規則第29号書式)に代替事項が記載されている場合においても、同様とします。
3 閲覧又は証明の事務の取扱いについて
(1) 申請書の取扱い
供託に関する書類の閲覧の請求(規則第48条)又は供託に関する事項の証明の請求(規則第49条)の請求者が秘匿対象者である場合においても、申請書には、当該請求者の氏名及び住所を記載することを要します(規則第33号書式、第34号書式。なお、民事訴訟法第133条第5項の規定は、適用されない。)。
(2) 供託につき利害の関係があることを証する書面の取扱い
(1)の請求者が供託につき利害の関係を有することを確認するために必要なときは、代替事項に係る氏名又は住所を明らかにする裁判所書記官作成の証明書を添付することを要します。