遺留分とは「遺産のうち最低これだけは取得できる」という法が認める相続人の権利です。
本来、自分の財産はどのように処分しようが、また遺言で誰に相続させようが自由です。
たとえば次男に全財産を相続させるとする遺言も可能です。
しかし、「各相続人の遺産に対する期待や各相続人の被相続人の財産形成に対する貢献を全く無視するわけにもいかないのではないか」という考え方があります。
それを具現化したものとして遺留分制度が認められていると解されています。
個人の尊重を重んじる憲法にはいささかそぐわないかもしれませんが、旧民法の遺留分制度が新時代にもそのまま残されたということは相続人間の平等という事柄も保護に値すべきと考えられたと、そう思います。
誰がどのくらいの割合で遺留分を行使することができるのか👇
子供のみが相続人である場合
↓
1/2
子供と配偶者が相続人となる場合
↓
子供が1/4、配偶者が1/4
配偶者と直系尊属が相続人となる場合
↓
配偶者が2/6、直系尊属が1/6
直系尊属のみが相続人となる場合
↓
1/3
遺留分以下の各相続人は、遺留分を超過して相続した者に対し、上記の割合に達するまで金銭請求する権利を有します。
遺言書を作成される際には十分留意しておく必要があります。みすみす紛争を起こさないためにも「遺産争族」となりそうな肌感覚の場合は専門家に相談してください。
遺留分の対象となる財産はどのようなものか👇
相続発生後の相続分の指定や遺贈に限られません。
すなわち相続開始前1年以内に行われた贈与や遺留分を侵害する意図で行われた贈与は遺留分請求の対象となり得ます。
遺留分の権利はどのように行使するのか👇
遺留分権利者は受遺者または受贈者に対して侵害された遺留分に相当する金銭を請求する権利「遺留分侵害額請求権」を行使して金銭を受け取ることができます。
遺留分侵害額請求権を行使するかしないかは本人に任されています。行使しなければ時効にかかります。
必ずしも裁判手続きを利用する必要はありません。
なお遺留分侵害額請求権を行使することができる相手方が複数存在する場合は、民法1047条の規定に従って行使します。
すなわち
①受遺者と受贈者が存在する場合→まず受遺者に対して行使します
②受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合でその贈与が同じ日時に行われた場合→その額の割合に応じてそれぞれに対し行使します
③受贈者が複数いて贈与の日時がそれぞれ異なるとき→相続開始日に近いほうから行使します
遺留分侵害額請求権はいつまで行使することができるのか👇
遺留分を行使する者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅します。相続開始の時から十年を経過したときも同様に時効消滅します。
また各相続人は被相続人の生前は家庭裁判所の許可を受けた場合に限り遺留分放棄の手続きをとることができます。
遺留分はあくまで相続人保護のための制度ですから放棄を認めるかの家庭裁判所の判断は以下の基準に従って厳格に行われます。
①自由な意思に基づいて行われたものであるか
他の相続人が脅して放棄させていたら大変なことです。
②遺留分放棄に合理的な理由と必要性があること
感情的な理由では不可となります。
③放棄の代償として経済的価値のある対価をうけていること
生前に十分な援助を受けていた場合などが該当します。
そして遺留分の放棄は一度行うと原則として撤回はできません。
ただし撤回を必要とする特別な事情がある場合は家庭裁判所の許可を得て撤回できる可能性はあります。
遺留分を行使できない人とはどのような人か👇
①兄弟姉妹
②相続放棄したもの
③相続欠格者
(相続人の欠格事由)
第891条
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
④相続人として排除された人
(推定相続人の廃除)
第892条
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
(遺言による推定相続人の廃除)
第893条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
特定の相続人に財産をどうしても与えたくない場合、遺言者は上記④を行使すれば遺留分を封殺することができます。ただし実務上、家庭裁判所が廃除を認めるハードルは高いものとなっております。
また廃除の事実は戸籍謄本に記録されます。
戸籍法第97条
第六十三条第一項の規定は、推定相続人の廃除又は廃除取消の裁判が確定した場合において、その裁判を請求した者にこれを準用する。
第63条
認知の裁判が確定したときは、訴を提起した者は、裁判が確定した日から十日以内に、裁判の謄本を添附して、その旨を届け出なければならない。その届書には、裁判が確定した日を記載しなければならない。
戸籍法施行規則
第35条
次の各号に掲げる事項は、当該各号に規定する者の身分事項欄にこれを記載しなければならない。
八 推定相続人の廃除に関する事項については、廃除された者
遺留分制度は法律改正がなされ、従前は遺留分減殺請求権を行使した場合、その侵害行為自体が無効として扱われていましたが、改正後は「金銭請求権を行使することができる」というシステムに変貌しました。
不動産に対する行使も容易となるため、紛争防止の観点からは相続人どおしで話し合いができれば一番いいことだと思います。
遺留分の存在を秘したりすることはかえって紛争の火種になりかねません。
一度専門家にご相談されることをお勧めします。
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第九章 遺留分
(遺留分の帰属及びその割合)
第1042条
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
(遺留分を算定するための財産の価額)
第1043条
遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
第1044条
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
第1045条
負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。
(遺留分侵害額の請求)
第1046条
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
(受遺者又は受贈者の負担額)
第1047条
受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
2 第九百四条、第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。
3 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。
4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第1048条
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
(遺留分の放棄)
第1049条
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。