以下の事例で考えます。
【事例】
Aさんは会社を経営していましたが、生前に長男Bに対して株式全てを贈与し、経営を託しました。その際、会社の経営状態は赤字続きで当時の株式時価総額は0円に近いものでした。
その後、Bさんは引き継いだ会社を立て直しました。
そして株式の贈与後8年経過したときにAさんが亡くなりました。
相続人は長男B及び次男Cです。
Aさん死亡時の株式時価総額は1000万円にも達していました。
Aさんの財産はありませんでした。
CさんはBさんが受けた株式の贈与を特別受益にあたるとして遺留分侵害額請求権を行使しました。これは認められるのでしょうか?
【結論】
特別受益の評価は相続開始時を基準に判断されますから、本事例の場合Bさんは1000万円の特別受益を得たことになり、遺留分算定の基礎価額に1000万円が加算され、遺留分侵害額請求が認められそうですが、平成10年3月24日最高裁判決は以下のとおり説示し、一定の事情がある場合には遺留分侵害額請求の対象とならないとしています。
平成10年3月24日最高裁判決
民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、同法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる。
全文→平成10年3月24日 最高裁判所第三小法廷 判決(PDF)
本事例でいうと、Bさんは株価の上昇は自分自身の多年の努力によるものであること、そしてCさんが何ら経営に関与しなかったことなどを最高裁判例でいうところの「特段の事情」として主張立証して争うことが考えられます。
なお、Bさんが相続放棄をした場合はどうでしょうか。
この場合、特別受益としての扱いでは無くなるため、民法1044条が適用されます。
第1044条
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
Bさんとしては、株式の贈与を受けた当時、その株式に価値がなかったことを主張し、遺留分権利者に損害を加える認識がなかったことを立証して遺留分算定の基礎財産に同株式の参入を回避することができると考えられます。
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