不動産をAさんからBさんに、BさんからCさんに順次売却した場合、不動産の登記手続きとしては①AからBへの所有権移転登記 ②BからCへの所有権移転登記の2つを順次申請しなければなりません。
不動産の登記手続きは権利の変動順に忠実に行わなわなければならないからです。
例えば不動産所有者が亡くなり相続人がその不動産を売却する場合には、まず相続登記が必要です。取引安全のための制度です。
新中間省略登記では権利変動を1つとする法律構成によってAからCへの所有権登記を実現します。
新中間省略登記と謳ってありますが、いわゆる中間省略をしているわけではありませんので何ら違法ではありません。名称が不適切かなと感じます。
法律構成としては2パターンあります。
1つ目は
「第三者のためにする契約」
これはAB間の契約で、名義をCに直接移すという特約を付して行う手法です。
第三者のためにする契約の典型例としては、保険金の受取人を指定する生命保険契約が挙げられます。
具体的には、AB間で「所有権を取得する者はBが指定する者とし、売買代金の支払いを条件としてAは本件不動産の所有権をBの指定する者に対し直接移転することとする。この条件が完成するまで、所有権はAに留保される」という特約付きで売買契約を締結します。
次にBC間で売買契約を締結します。Bは不動産の所有権者ではありませんのでこの売買契約は他人物売買(民法第561条)ということになります。このBC間の契約は必ずしも売買契約である必要はありませんが、売買契約である方がCの理解を得られやすいかと思われます。またBが不動産業者であればBC間は売買契約となることが多いと思われます。
そしてCがその不動産の所有権を取得するという意思表示(受益の意思表示)を行い、CがBに、BがAに代金を支払うことによって、所有権はAからCに直接移転することとなります。
注意すべきはCが受益の意思表示をして所有権を取得したとしても、BからAに代金が支払われていなければAはCへの所有権移転登記手続きを拒絶でき(民法第539条)また契約内容に問題があったとして詐欺・錯誤等を考える場合もCは契約の当事者ではありませんが、当事者に準じた立場ということで第三者保護規定は適用されず、AはCに対し契約に関する瑕疵を主張することができます。
CはAB間の契約の信用性をよりいっそう確認する必要があり、代金の決済についても確認する必要があるということです。
実務上は同席または同時決済も多々あります。それぞれ代金決済が別日となる場合は取引安全のため特に注意が必要です。
(第三者のためにする契約)
民法第537条
契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
※2は改正民法(最判昭37.6.26を条文化したもの)
(他人の権利の売買における売主の義務)
第561条
他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
(債務者の抗弁)
第539条
債務者は、第五百三十七条第一項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
2つ目は
「買主の地位の譲渡」
これはCがBへ対価を払って買主の地位を譲り受けることです。
この契約は3者間で締結するか、またはBC間で契約したものをAが承諾するという形態をとります。契約者としての地位がまるごと移転するわけですからBは買主としての地位を離脱し買主としての権利義務や契約内容はすべてCに引き継がれます。取引安全についてはAC間を考えることになります。またAB間の契約上の地位をCが引き継ぐためAB間の売買代金額をCが把握できることになります。
第539条の2
契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。
※改正民法(これまでの通説を条文化したもの)
どちらを選ぶかは事案の性質次第ですが、中間者が不動産業者の場合は取引安全のために「第三者のためにする契約」の選択を推奨します。
その理由の補足は下記をご覧ください。
新中間省略登記メリットは
①中間者への登録免許税が節約できる。
②中間者は不動産を取得しないので不動産取得税を節約できる。転売目的の場合、売却までの固定資産税も節約できる。
デメリットは
異時決済ではAに名義が残るためAが無断で他人に名義変更を行う危険が残る。
といったところでしょうか。
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